日本の川にヨーロッパのウナギがいる?

 



 日本には昔から2種類のウナギ、つまりニホンウナギAnguilla japonica とオオウナギA. marmorata、がいることが分かっています。食用に養殖しているのはニホンウナギです。養殖には冬から春にかけて海から川にのぼって来るシラスウナギ(色素がほとんどない、ガラス細工のような体長5〜6センチメートルの稚魚)を種苗として使っています。
 
 日本では,養鰻業が今よりもさかんだった30年前に,フランスを中心にヨーロッパウナギA. anguilla のシラスウナギを大量に輸入したことがあります。この大量輸入は約10年間続いたのですが、ヨーロッパウナギは日本の養殖技術になじまず、飼いにくいと判断されて、その後の輸入量はかなり減りました。

 このような事実から、ウナギの権威、故松井 魁博士はその著書「鰻学」で輸入されたウナギが日本の天然水域に住みつくことを警告していました。それ以降、ヨーロッパウナギが日本の水域にいるらしいとのウワサが時々ありましたが、実際に確かめられたことはありませんでした。



図1 ニホンウナギ(上)とヨーロッパウナギ(下)の頭部。非常によく似ており,見分けは難しい。

 
 当研究所ではウナギの種苗生産の研究をしており、天然の大型ウナギを雌親魚として使っていますが、そのなかにヨーロッパウナギがいるのではないかと疑いを持ちました。そこで、種判別のために,親魚として使用するウナギ(1997年8月から1998年2月にかけて捕獲されたもの)のミトコンドリアDNAを,PCR-RFLPという方法を使って調べてみました。その結果は下表に示すとおりになりました。


表1 判定に用いたウナギの尾数と出現したニホンウナギとヨーロッパウナギ

産 地

判定に用いた魚の尾数

ニホンウナギの尾数(%)

ヨーロッパウナギの尾数(%)

有明海

19

 

19(100.0)

 

0( 0.0)

 

宍道湖

513

 

352( 68.6)

 

161( 31.4)

 

吉野川

18

 

18(100.0)

 

0( 0.0)

 

三方五湖

5

 

5(100.0)

 

0( 0.0)

 

三河湾

443

 

388( 87.6)

 

55( 12.4)

 

浜名湖

50

 

50(100.0)

 

0( 0.0)

 

合 計

1,048

 

832( 79.4)

 

216( 20.6)

 


 
 この表に見られる様に、宍道湖と三河湾では検査したウナギのうち、前者では31.4%、そして後者では12.4%がヨーロッパウギでした。このとき調べた魚の大部分は種苗生産に用いるための比較的大型の魚でした。これらのウナギは養殖池から逃げ出したり、放流されたりしたものと考えられます。
 
 まだ調べてはいませんが、他の水域にもヨーロッパウナギは沢山いると思われます。今年(平成12年)から水産庁は全国の水産試験場に委託して、ニホンウナギ資源の調査を始めました。その調査の結果、もっと多くの水域でヨーロッパウナギが発見されるのではないかと気がかりです。

 ヨーロッパウナギは同じ水域にいるニホンウナギに、例えば限られたエサを横取りするなど、いろいろな悪影響を与えているかもしれません。現在の日本の水域は,河川改修や水質の悪化で,ニホンウナギにとって住みにくい環境です。それを、さらにこのようなかたちで住みにくくしてはいけないと思います。

参考
松井魁 鰻学 恒星社厚生閣, 東京, 1972
ZHANG et al. (1999): Foreign eel species in the natural waters of Japan detected by polymerase chain reaction of mitochondrial cytochrome b region, Fisheries Science, 65(5): 684-686.

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