鰻談放談−1

−大型ウナギのこと−

 

 四十年ちかくウナギの周辺をうろうろしていると、いろいろな話を耳目にし、それが容量のあまり大きくない頭の中にごちゃごちゃに溜まってしまいます。なにかで使ってしまえば、そのオリジナルはキレイサッパリ忘れてしまえるのですが、なかなか使えずに残ってしまうものもあります。

 それらも、人目に触れるようにしておけば、奇特なひとが利用して下さるかも知れないと思い、じつは「水産増殖研究会報」という雑誌に−同会主催者のご賛同を得て−「キンギョのうんこ」という題でいくつか書き残しています。それを、同会主催者のご承諾を得て、いらご研究所のホームページに、頭書の題名で、再録することにしました。なんと言っても、ウナギについての情報を求める方々は当研究所のホームページを利用される機会もあるでしょうから。

 ですから、ここに記すことはほぼ同文でありながら別の題目で印刷されているので、本格的にご利用くださる方には、多少「めんどうなことしやがる」と思われることもおありかも知れません。そこはマァ、ごカンベンいただきたくお願い申し上げます。

 また、この話のなかには人名がでてくることがあります。ご本人には「迷惑だ」とお思いになられるかも知れませんが、これも「アイツのことだから、マァ仕方がないか」と、ご容赦いただきたくお願い申し上げます。

 以前は初めての土地に行くと、わたしはその土地の天然大型ウナギについて情報を集めようとしました。

 以下は約20年前、徳島県の水産試験場に行ったときの話です。お話くださったのは、当時、水産試験場に在籍されていた成田尭さんです。

 鳴門海峡の徳島県側に小さな島(島田島?)があり、それと四国との間の狭い水道を小鳴門海峡と呼ぶそうです。そこで、秋から冬にかけてカニ籠漁をやるとのことですが、籠が瀬戸内海側から紀伊水道側にかけてズラリと並ぶ、それに大型ウナギがかかるのだそうです。それも、秋口には瀬戸内海側に置かれた籠に入るが、秋が深まるにつれてウナギは紀伊水道側の籠に入るようになるということです。

 それだけの話ですが、「産卵に行くウナギが瀬戸内海から太平洋に向かって移動しているのではないか」と思ったものです。

 成田さんからお聞きした話をもう一つ。

 秋口に、紀伊水道で小舟を浮かべて漁をしていた漁師さんから聞いた話ということです。

 距岸約2キロメートルの沖合を大きなウナギの群れ−二〜三百尾いたそうです−が、水深2〜3メートルのところを上になったり下になったりしながら、南を指して泳いで行ったそうです。

 これもそれだけの話です。

 秋の澄んだ、天気のよい午後に、ウナギの群れが、上になったり下になったりしながら、産卵場に向かっている情景が、いかにもありそうなこととして、わたしの頭の中に再現されました。

 これに関して思い浮かぶのは、現在も静岡県相良町にご健在の矢部 博先生(先生は今はなくなった水産庁南海区水産研究所の最後の所長であられました)のお話です。先生は海釣りがお好きで、土佐の海に出て釣りを楽しまれたそうです。冬のはじめとのことですが、大きなウナギがたくさん釣れたそうです。産卵回遊に出発する前に、ウナギはが食い溜めするのでしょうか。

岡英夫、20015(初出20006)